少し肌寒い風が、というかもう冬だろみたいな空気が、僕を過去に連れていく。
季節の変わり目に昔から滅法弱い。どうしたって記憶がフラッシュバックしてしまう。
後夜祭の日、花火の下で告白したこと。
あなたの手をポケットに入れて散歩したこと。
巨大なクリスマツリーの前で初めてキスをしたこと。
栄まで走ってプレゼントを買いに行ったこと。
あなたと阪大のOCに来たこと。
あなたがものすごい猫舌で、たこ焼きが全然食べられなかったこと。
なぜかそれに苛立ったこと。
クラスが違う文化祭準備でぎくしゃくしたこと。
後夜祭の日に「さよなら」といったこと。
鬱になって深夜に街に飛び出したこと。
なんとか話しまくって復縁したこと。
塾をサボって病院に行ったこと。
自分勝手にすがりつかせたこと。
一緒に塾のラウンジで勉強したこと。
上手くいかなくて、あなたに八つ当たりしたこと。
塾帰りのコンビニで一緒にカップ麺を食べたこと。
何度も餃子の王将に行ったこと。
レンゲを両手に持ったらかわいいって写真を撮られたこと。
センター前は余裕がなくなって距離をとったこと。
あなただけは手紙もクリスマスプレゼントもくれたこと。
もらった靴下のサイズが全然あってなかったこと。
それでもその気持ちが少し嬉しくて申し訳なかったこと。
「おはよう」と「おやすみ」だけのLINEに辟易していたこと。
受験期に散々あなたを振り回したこと、利用したこと、冷たくしたこと。
僕は、忘れないでいる。
いや、きっと忘れてしまったこと、憶えていないこと、たくさんある。
あなたを傷つけたこと、あなたに言われるまで思い出せなかったことはたくさんある。
それでももう、忘れたりしない。
あなたと純粋に恋をした一度目の秋のことを。
死ぬほど楽しかった一度目の冬のことを。
別れて復縁した二度目の秋のことを。
身勝手に距離を置いた二度目の冬のことを。
だから、あなたも忘れないでいてほしい。
いや、忘れようとしないでほしい。
あなたが裏垢で僕の悪口を三か月も前から言い続けていたのを知った日、
もう冷めかけていると知った日、
二人で朝から夜まで話し合ったあの日、
「気持ちが戻るまで待っていてほしい」と言ったあなたを、
ちゃんと気持ちを返したくてと不意にキスをしたあなたを、
なんでこんな風になったんだろうと呼吸できなくなるほど泣いたあなたを、
絶対に忘れないで。
あなたが別れを告げた日、「あの日本当は別れようと言おうとしてた」って。
でも言えなかっただけだって。
あの日のあの涙も嘘にして。過去の自分を殺して。
新しい自分を始めて。
きっとそれがあなたを守る手段だったと、防衛本能だとわかってはいるけど。
せめて、あんな自分もいたんだねって、受け入れてから前に進んで。
僕を愛したあなたを返してなんて言わない。
でもそんなあなたもちゃんとあなたの未来へ連れて行って。
あの夜、京都駅まで見送りに来たあなたに、
「これが会うのは最後になっちゃうかもね」
僕はもう、期待するのが怖くて言った。きっと泣きそうな顔で言った。
「そんなことない。ちゃんと会いに行くね」
ひと月以上も過ぎたけど、僕の誕生日プレゼントも買って持っていくからって。
“言ったくせに”と僕の「憎」が言う。
結局、僕が本当にならないでくれと口に出した言葉は、本当になった。
プレゼントが僕の手元に渡ることもなかった。
あなたにあげたユニバのチケットも、二人で行く為のものにはならなかった。
二年記念日に計画してた旅行も、行けなかった。
あなたがずっと見たいと言っていた僕の和装姿も、もう興味はないんだろう。
あなたがずっといたいと言っていた僕は、どこにいるんだろう。
「冷めさせてごめん」と僕の「愛」が言う。
Love and hate are two sides of the same coin.
愛憎は表裏一体。
まだ二つの僕が変わりばんこに現れては喧嘩して、
また今日も眠れない夜を過ごしている。
次彼女ができたら「あなたが彼氏で世界で一番幸せ」と言わしめるくらい、
大切にしてやればいいんだと。
いつ来るかも知らないIfで無理やり結論付けて。
でも、あなたが帰らないことも、過去に帰れないことも、事実だから。
今はこうして季節の波に任せて、ただ流されていようと思う。
しかし、やっぱりこの温度は人肌恋しくていけない。