Last Letter

 

ずっと日記を書くのを避けていた。

誰にも見せない僕だけの文章から、僕はずっと顔をそむけていた。

 

無意識に怖かったからだろう。

自分に嘘をつくことが。

自分にさえ嘘をつくようになってしまった自分と対峙することが。

 

3年半も前のブログでは、

「嘘をつくのが嫌いだ」と言いながら嘘をついていた僕が、

ついには息を吐くように嘘をつけるようになった。

 

立派に社会に適合しようと試みたのだ。

それにより私は変人でも凡人でもない中途半端な存在になってしまった訳だけれど。

 

思えば私のメタ認知はこういうところとも関連があるのかもしれない。

嘘をつく、というのは裏を返せば、相手の望みに応えることであり、

つまり相手視点の「目」を手に入れることだ。

 

それで私は、嘘を平気でつくようになってから、

主観を大きく失ってしまったのかもしれない。

 

 

なので、今回は久々に嘘も衒いもなく、恥も外聞も気にせずに文章を書きたいと思う。

しかもそれを「手紙」という形式で。

 

本来であれば、私しか見ないという安全圏であるがゆえの真実を、

他者に伝える前提の形式で綴っていく。

そうすることで、僕は少しずつ主観性を取り戻していきたいのだ。

 

それが善いことなのか悪いことなのか、

私にはわからない。

壮大な自己満足だとも思う。

しかし今の状態が僕にとって、そして相手にとっても望ましいとは思わないのだ。

 

という訳で、この文章を

もう4年付き合っている恋人への手紙としたい。

 

 

ブログを見返すと、3年前、まだ付き合って1年ほどの、

あなたに対する気持ちがつづられていた。

今よりも確実に湿度と熱量の大きいその文章に、

僕は自分で書いたはずなのに少し驚いてしまった。

 

ちゃんとあなたを恋愛として好きだった時期があったのだな、と

率直に言えばそう思ってしまった。

 

もちろん、今でもあなたのことは好きだ。

それなりに大切に思っているつもりだし、

あなたと話していると楽しいことの方が多い。

あなたがいなくては日々の豊かさの大半が損なわれてしまうだろうという実感もある。

 

しかし、付き合って四年、

恋愛としてときめくような感情はもう殆ど起こらない。

恋愛のときめきと性欲はやはり全く別物であることがわかる。

重なっているところもなくはないだろうけれど、同じものでは決してない。

 

失礼なことを言っているかもしれないが、

それはおそらくあなたも同じであろうと推測する。

だから私たちは、時折別れるとかひどいことを言ってみたりして、

停滞した関係性の凹凸をなんとかつけようと試みているのだ。

 

それはまるで、停滞した教室の関係性のなかで

誰かをいじったりいじられたりしたキャラづけをして、

コミュニティの行き詰まりを解消しようとするがごとく。

 

俗にいう倦怠期である。

私たちはとっくにその時期に到達している。

それはもう言い逃れようのない事実だ。

 

自分のときめきがいつ減退したのか、

はっきりとした時期はわからないけれど、

最後にときめきらしきものを観測したのは

ふたりで嵐山に行ったときだったような気がする。

 

そんなことはないか。

でも、去年の春くらいからだんだん冷めていったような。

 

結局、自分の就活が終わった瞬間からか。

身勝手だ。あまりにも。

 

 

自分の、こういう身の振り方には覚えがある。

高校3年生、受験期。元カノともそうだった。

 

付き合いたての時は私の方が依存して、

ふたりに溺れていくように仕向けたのに、

いざ自分の気持ちが冷めてくると、

もしくは相手の依存度が自分のそれを上回ると、

途端にそれを重荷に感じて、自分が何か窮屈なものに閉じ込められているような気がしてくる。

 

受験期に私たちの愛の天秤は逆転し、

私は彼女に冷たくし、

結果、その影響があってかないかはわからないが彼女は受験に失敗した。

 

しかし大学での立ち回りは当然彼女の方がうまくて、

というより、自分の選択を正しいものにせんという努力を彼女はしたことによって、

私に対する依存度を急激に下げ、

1年生の5月か6月には天秤がふたたび逆転。

 

彼女の態度が急に冷たくなり、そのまま夏に破局することになる。

 

共依存の恋愛なんてこんなものだ。

熱しやすく冷めやすい。

 

お互いがお互いを必要としている時だけ、その関係は熱を帯びる。

 

 

いまでも私は、そんな恋愛をしている。

というか、そういう形以外の恋愛のやり方を知らない。

 

それはたぶん、大半は自分の孤独のせいなのだろう。

 

 

だから、いま私があなたと4年続いている理由は、

お互いにまだお互いが必要だから、というほかない。

 

そんなことは、多分言わなくてもあなたはわかっているでしょ?

 

私たちの関係はもう恋人じゃなくていい。

親友とかでいい。

 

あなたはもうセックスしたいとも思ってない。

異性としての魅力を感じている訳でもない。

 

ただ自分のことをよく知っていて、長らく付き合っている私といるのが楽なだけだ。

家族友人以外の第三のコミュニティの存在に安心しているだけだ。

 

あるいは。

4年という途方もない時間、心を溶かし合ったことによって、

それらを引きちぎる活性化エネルギーのコストを払うのが嫌なだけだ。

 

なんて。

あなたの本当の気持ちはわからないけれど。

今のが私の本当の気持ちだよ。

 

もう恋人じゃなくていい。

ただ話したいことを話す相手として、

もしくは趣味の聞き手として、

わたし/あなたは必要だった。

多分いまもきっと必要としている。

 

ただひとつ違うのは、わたしには人並みに(それ以上に?)性欲があって、

その解消相手としてもあなたを必要としているという点。

 

酷いね。

ひどいって思うけど、でも処女を捨てたいと言ったのはあなたでしょう?

 

私たちの関係はセフレから始まっている。

だから何という訳でもないけれど。

それで愚かにも好きになってしまったのは私の方だけれど。

 

でも、あなたは処女でいることへの不安を解消したくて私を利用した。

私も性的欲求のためにあなたを利用した。

 

それは同じ程度にひどくて、わるいことだったはず。

 

・・・なんて、自分の前でも言い訳ばっかだ。

ほらまた自分かばった。

 

 

何度も別れ話をしたね。

そのたびに互いが互いを引き留めてきた。

 

愛の天秤がどちらかに傾いたとき、

どちらかにとっては不必要で不自由でも、

どちらかにとっては必要な関係だから。

 

 

そして、今お互いに同じくらい微妙に冷めていて、

でも遠距離なのもあって付き合うままでのデメリットもそんなになくて、

別れるメリットもそんなになくて、

 

だからこんなにつまらない毎日が続いている。

退屈な関係をだらだらと続けてしまっている。

 

 

しかし、ここにきて私が別れたいと思っているのは、

付き合っていることのメリットが漸減してきていることと、

付き合っていることのデメリットが発覚していることにある。

 

前者はさっきも言ったように、

あなたに性欲がなくなってきていることだ。

性欲がないあなたとセックスするのは私にとっても楽しくない。

コミュニケーションではなく作業になってしまうから。

 

すごく最低なことを言っている自覚はある。

でも、そもそももうこんな物理みたいに恋愛とか交際を考えている時点で、

ここには理屈じゃない恋愛感情が存在していない。

それなのに交際を続けていること自体が不自然で、最低なのだ。

だから、セックスという交際のメリットが漸減してきた今、恋人関係を続ける必要性はますます小さくなっている。

 

話は少しそれるけど、でも私はいまも別れを切り出すのを迷ってもいる。

それは別れるデメリットももちろんあるからだ。

それは、単純に「友達をひとり失う」ということである。

 

あなたに負けないくらい、私にはコミュニティが少なくて、

あなたと話せなくなるのはつらい。

あなたと創作の話をしたり、音楽の話ができなくなるのは単純にかなしい。

 

だから本当は以前のような友達に戻りたい。

セックスも介入しない、ただちょっと仲のいい男女に戻りたい。

 

しかし、そんなことは許されない。

世間はどうか知らないが、あなたは許さないだろう。

 

恋人と別れるということは、他人よりも他人になるということだ。

出会う前よりも他人になる、ということだ。

友達に戻れるなら友達に戻りましょうと今すぐ言っている。

 

それが叶えば…どれだけよかったか。

それが私の本当の願いであり、気持ちなのに。

それを口に出すことは許されない。

 

 

話を戻して、

後者、付き合うことのデメリットについて。

 

これは「嘘をつき続ける」という事実だ。

私はこのデメリットを軽視していた。

 

冒頭でも書いた通り、私は昔嘘をつくのが下手だったが、

今では息を吐くように嘘をつくことができるようになった。

 

このぬるま湯と冷えた水の中間のような交際関係のために、

体裁上の「すき」を吐き続けた。

いつからそれが嘘になってしまったのか、私には思い出せない。

もはやその境界はどこにもないのかもしれないが。

 

ファジー理論と同じように、

いつのまにか心を見たら「スキ」という感情がなくなっていた。

二値的な関係じゃないから、心はアナログだから、

分からないけれど、でももうこれが恋じゃないことだけは明確であって。

 

だから、今現状嘘をついていることも変わらない。

 

私の本心を偽っていて、

しかもコイバナをする機会はあるから、そのたびに嘘をつく必要があって、

それが本当に面倒くさくて、

私が私を私でなくしていくようで。

 

あなたに嘘をつくことがつらいのではない。

自分に噓をつくのがつらいのだ。

 

あなたに嘘なんていくらでもつける。

そもそも嘘を教えてくれたのはあなただから。

あなたがもともと噓つきだったのだから。

 

3年前のブログにも書いたけど、

私はあなたを笑顔にするために嘘をついてきたんだよ。

 

でも、私が嘘をつくたびに私はやっぱり摩耗していた。

変なメタ認知を手にしてしまった。

 

子どもの頃、自分が確かに持っていた変人さは、

変なこだわりは、視野狭窄は、どこにいってしまったのか?

 

僕は何がすきなのか? 僕は何がきらいなのか?

 

わからなくなってしまった。

 

どうでもいいけど、一人称を変えたのもちょうど3年前くらいだったかもな。

「わたし」ちょっと気に入っていたけれど、

そもそもきっかけをあまり覚えてないけど、でもあなただったような?

 

なんか言葉の強さを矯正しようとした時期があったんだよな。

 

いろいろ、私も丸くなろうと頑張っていたんだな。今思えば。

それが私なりの誠意だったけれど、それが僕を殺していたのかもしれない。

 

その責任を転嫁したいわけではまったくないけれど。

 

でも、周りの先輩見てたらさ。同期見てたらさ。

変人のあなたの友達を見てたらさ。

 

もう一度嘘のつけない僕に戻りたくなってしまったよ。

 

もう一度、子供みたいな変人の僕になりたくなってしまったよ。

そこにありのままの僕がいた気がするんだよ。

もっと僕に自信を持つことができた気がするんだよ。

 

 

なんていうのは、やっぱりわがままなのかな。

あなたと別れれば、それが全部叶うだなんて、思い込みもいいところかな。

 

ね、ひどいよね。やっぱり。

でも、もうこれから大した変化も卒業もない人生で、

少しぐらい変化を起こしたいと思ってしまったんだ。

 

何かが終わらなければ何も始まらなくて、

私は何かが始まるかもしれないという物語の萌芽に期待をしてみたくて、

こんな停滞から抜け出したくて仕方ないんだ。

 

ひとりになって、私が何ができるのか。

同じようにくだらない休日を過ごすのかもしれないけれど。

というか絶対そうなんだけど。

 

ひとりになったからこそできることがあるかもしれないって。

なんかそう思っちゃってるんだよな。

そんなの、別に今でもやろうと思えばできるのに。

 

いや、結局私は何がしたいというより、ひとりになりたいだけなのかもしれない。

心の換気をして、思考の風通しをよくしたいだけなのかもしれない。

 

 

自己中心的だね。

私が元カノの受験期に少なからず悪い影響を与えたように、

私はあなたの大学生活に少なからず悪影響を与えた。

 

翻ってあなたは私が死にたくて死にたくて仕方がない時に、

私の代わりに泣いてくれた。

 

それを忘れている訳じゃない。

感謝してる。罪悪感もある。

だからこうして、あなたがしんどいうちは一緒にいようと思っていたんだ。

 

でも、あなたの状況は丸1年経っても改善の兆しが見えず、

私の目にはあなたは現実逃避を続けているようにしか見えない。

 

そう、私と付き合うあなたの最大のメリットは現実逃避のお遊び相手なんだ。

 

もちろんそれを承知で私は付き合ってきたけれど、

そろそろ限界だと思う。

 

あなたも感じていると思うけど、最近は肝心の「話していて楽しい」とか「遊んでいて楽」みたいな互いにとっての最大のメリットが機能しなくなっている。

シンプルに合わなくなってきてしまった。

 

それは私が仕事で疲れているとか、

そもそも立場の違いとか、まあ理由はいろいろあるだろうけど、

今に始まったことでもないだろう。

 

 

だから、もう別れませんか。

友達に戻ろうなんて言いません。

 

もう離れませんか。

 

 

本当は、あなたに返さなくてはいけないこと、いっぱいある。

あなたが私を生かしてくれたから、

私はあなたが死んでしまうのだけは絶対に防ぎたい。

 

それだけはしてほしくない。

 

 

なんて、これも自分のせいと思いたくないのかな。

まあ、恩返しがしたいなんてのも大概自己満足だけれど。

 

 

私はいま、最低なことを考えています。

あなたの本心を覗き見てしまうということです。

 

もしあなたが私と同じ気持ちなら、

きっとあなたも嘘をついている。

 

それがばれてしまえばいい。

 

 

 

そしたら、ようやく本音で話し合えるでしょう?

 

 

 

 

 

 

僕は嘘が嫌いだ。

こんな子供っぽい自己満足のためにあなたを傷つける。

 

最低だ。

その先に、誰かを本心から愛せる日がまた来てほしいと本気で願ってしまう僕が。

 

 

 

誰かと本心で愛し合いたいと祈っている自分が。

 

 

 

 

 

 

 

本当にごめん。

ごめんなさい。